申年だけに

 ある著名な裁判官の方が、「ある時期から日本の裁判官は三猿になった」とおっしゃっいました。見ざる、言わざる、聞かざる、ということです。近ごろは、「もう四猿だ」とおっしゃるのです。何がつけ加わると思いますか。「考えざる!」これは深刻です。これらが揃わないと、なかなか裁判官として出世できない。なかば公的な議論として、そういう意見もあるということだけは知っておいてください。問題意識をもっている裁判官が、ついに裁判所の本庁に行くことなく、ずっと支部ばかりまわされる、そういう不利益を受け、有能な裁判官の方が、政治的なテーマだとか、立法政策に及ぶようなことは、ほとんど裁判所のなかで話ができないという現実が、今の日本には残念ながらあるわけです。

木佐茂男(九州大学教授)
伊藤真の司法試験塾・法学館編[2000]『明日の法律家へⅤ 司法改革を語る』(日本評論社