戦争が遺したもの

(鶴見)食糧不足になったら隣組単位で共同炊事が起こって、私の家なんか略奪されて、共産主義革命になるだろうと思ったんだ。だけど、その予測は外れたわけ。どんなに空襲や食糧不足がひどくなっても、日本人は共同炊事ができなかったんだよ。一人ひとりが農村のコネを一人でたどって、買い出ししていた。
(上野)結局、家族エゴイズムにとどまったと。
(小熊)家族エゴイズムが、総力戦体制と革命の両方を成立させなかったと。

(上野)私が記憶しているべ平連の三原則というのは、
(1)やりたい者がやる、やりたくない者はやらない、
(2)やりたい者はやりたくない者を強制しない、
(3)やりたくない者は、やりたい者の足を引っぱらない、
というもので、単純でいながら大変良くできた原則です。

(鶴見)・・そして、彼らが仲間を総括して殺したというリンチ事件はつまらないね。そういうなかに巻き込まれないように、普段から人をよく見ることが重要だと思う。・・
(上野)そうすると、鶴見さんがあの事件から引き出した教訓は、お互い同士として頼む仲間を見る目がなかった、という話なんですか。
(鶴見)見る目がなかった。しかしそうなったときでも、まだ取り返せる。可能な限り逃げるんだ。命令されて仲間を殺すくらいなら、逃げるんだ。
(上野)しかし連合赤軍の人たちは、大義や理念のために、逃げない道を選んだわけです。
(鶴見)大義というような抽象的なものによって、決断すべきじゃない。人間にはそんなことを判断する能力はないんだ。誰となら、一緒に行動していいか。それをよく見るべきだ。